「高野山(こうやさん)」や「比叡山(ひえいざん)」という呼び方があります。その一方で、「金剛峯寺(こんごうぶじ)」や「延暦寺(えんりゃくじ)」という名前も聞いたことがあるはずです。なぜお寺にはそれぞれ名前があるのに、山の名前でもよばれることがあるのでしょうか。
お釈迦さまは悟りを開く前の修行僧時代、人里離れた土地で修行をしました。悟りを開き、お釈迦さまの周りに人が集まってきて教団ができて、精舎(僧院)が建てられるようになると、出家修行者は雨期の間だけそこに住んでいました。王さまに寄進された「竹林精舎(ちくりんしょうじゃ)」や、「平家物語」にも出てくる「祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)」などが有名です。その後、インドではレンガ造りの壮大な僧院が建造されるようになりました。
インドからシルクロード、中国を通って仏教が伝わった日本でも、伝来当初は平地に寺を建てていましたが、平地よりも空気がよく、深く瞑想(めいそう)できる山の上のほうが修行ができると考えられるようになり、寺が築かれるようになりました。仏教が伝わる以前から日本にあった山岳信仰からの影響も、寺が山の上に建てられるようになった要因の一つです。
このようなことがもとになって、寺には「○○山」という名がつくようになりました。これを「山号(さんごう)」といいます。寺の名前は「寺号」といいます。「山号」「寺号」とならんで「院号(いんごう)」というものもあります。院とは寺の別舎のことで、寺のなかにある僧の住むところを指します。高野山の敷地内には117の小院があり、蓮花院(れんげいん)や正智院(しょうちいん)、報恩院(ほうおんいん)など、それぞれに名前がつけられています。その院の名前が「院号」です。
三種類の呼び名のどれを使うかは、お寺に対する人びとの親しみぐあいによって異なるでしょうが、それぞれの名前で広くよばれるようになった結果、たとえば「高野山」と「金剛峯寺」が同じものを指すことになったのです。「高野山」といえば多くの寺院がある山上の地域を指し、「金剛峯寺」といえばそれら多数の寺院の中心となる寺ということになります。